新たなる覇者の条件

本書におけるイノベーションの定義は、新規事業のイノベーションである。

新規事業とは、自社技術を使って新市場に参入するものや、外部から技術を導入して新製品・サービスを開発するなどがあげられる。

新規事業とは、既存事業から違う領域や技術へとジャンプする必要がある。

そのために、必要なステップが以下の5つである。

1. 組織をオープンにする

 自社の知らない技術、領域へ進むことから、他者のリソースを活用することが必須となる。

 東レセブンイレブンNTTデータリクルート富士フイルムのが行った「経営トップの意識が反映される」、「社員のマインドセットを変える」、「継続するための仕組み作りをする」という施策が紹介されている。

2. 知のダイバーシティを推進する

各企業の取り組みを以下に示す。

 ユニクロ東レ:違う業界とのパートナーシップには、発見が多い

         バリューチェーン上の弱点を補う(上流企業と下流企業など)

         マーケットインとプロダクトアウト

 三井化学: 様々な技術を翻訳して組み合わせるシェフ型と技術を掘り下げるファーマー型研究者が必要。ソリューションを提供するためにはこの両者の存在が必要となる。

 富士フイルム: コア技術を明確にし、共通言語を元にそれらを水平展開する。それにより技術を組み合わせて製品に仕上げる。ホラをふき(明日の夢を語り)、懐疑的な人を巻き込む。

 コニカミノルタ: ジャンルトップ戦略を目指す。その為にはスピードが必要となる為、コア技術のみで成果を出すのは難しい。従って、結果的に他社との協業が必要となる。

3. あえてダブルスタンダードで進む

 アイディアフェーズと投資フェーズでは、評価基準が異なるはずである。これを踏まえて、以下に各企業の取り組みを示す。

 コマツ:社長直轄でGo/No Goの判断を行い、スピード感、評価方法の妥当性を担保する。

 リクルート:数値目標で新規事業を評価すると、収益を生まないことから新規事業に取り組まないことが正解となる。ベンチャー企業と同様に将来性の価値を含めて評価すべき。市場での評価、顧客数などのゲートを複数設定し、ゲートを達成するごとに資金援助が受けられるゲートステージ方式を採用している。

 ソニー:シードアクセラレーションプログラムを活用。(1)新規事業をクラウドファンディングとして、世界から資金提供を受けそれをもとに取り組む。それにより、社会のニーズとのマッチングを図る。社内技術の公表というデメリットを把握した上で、顧客ニーズの把握、アイディアの地力の評価というメリットが上回るという判断。(2)他社のアイディアと自社の技術を組み合わせて、新たなソリューションの提案へ。

4. プラットフォームを進化させる

 プラットフォームの提供を行うことで、情報を招集できるメリットがある。一方で、常にプラットフォームの改善に努めなければ、ユーザーの減少、価値の低下を招く。

各企業の取り組みは以下の通り。

 NTTデータは、大企業とベンチャーをつなぐ場の提供を行っている。

リクルートは、ユーザーベースとクライアントを繋ぐことによる「不の解消」を目指している。このモデルはリボンモデルとして、同社の共通言語となっている。

セブンイレブンプライベートブランドの導入(以下、PB)。PB製品は、年間で7割入れ替わるとのこと。ヒットの理由は、各素材を複数メーカーから仕入れることによる質の向上、包装材などの一括購入によるコスト低減、ヒット商品でさえも製法の改善を年に1回以上行う。

コマツは、スマートコンストラクションの開発を行った。IOTによる工事現場の自動化を目指した。そのプラットフォームには、他社の参入も認めた。将来的に機械のシェアリングが起こることを見越し、収益の構造変化が起こる可能性がある。その際にどのような差別化を目指さなければならないかをプラットフォームをもとに考える。

 

5. 事業出口を柔軟にする

ハコモノから始める:富士フイルムコニカミノルタイノベーションセンターを作ることで、出口探索を専門とする部門を作った。

選択と分散をする:東レ(コア技術を突き詰め、様々な領域に波及させる)、日東電工(変化が顕著な領域で自社の技術を生かし、優位性を発揮できる)、サントリー(当初のコンセプトをもとに、過去の技術を活かす)、味の素(他社は敵という概念を捨てる)など。

 

所感

著者らが冒頭に「外部でオープンに喋ってよい情報化どうか基準が明確でない」ため、情報の開示が難しいと述べていた。これについてはまさに企業研究者がぶつかる壁であろう。

自社の技術を活用し、足りない技術を他社から集め、優位性を発揮できる市場でトップを目指すというのが一般的な戦略であろう。